鮨の順番
美味しいものを食べるのは、大好きです
幸せな気分になります💗
でも、誰とどんな会話をしながら食べるかによって、その美味しいものも、一気にまずくなってしまうのも事実
父は美味しい食事をまずくするひとでした
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お酒を飲むことと食べることが好きだった父は、長崎、広島、伊丹と引っ越した先々で、お客があると当地の名物やら美味しいものを食べに行きました
「旨いものを食わせる」ことが、父にとっての最大のもてなしであり、愛情表現だったと思います
でも、大金をはたいて、喜ばせたいはずの相手の気持ちには、いっさいおかまいなし、というよりも、人の気持ちというものが、恐ろしいほどにわからない人でした
海外在住も長くなった頃、里帰りした時に「鮨を食いに行こう」という父と一緒に、気は進まなかったけど、築地のすしざんまいへ行きました
カウンター席に並んで座り、運ばれてきた生ビールのジョッキを前に
「好きなものを頼めよ」と私に言い、父は慣れた様子でネタを板前さんに注文
カウンターでお鮨なんて、日本に住んでた頃からめったに行く機会もなかった私は、どれから注文すればいいか迷いつつ
ちょっと緊張しながら、いくつか頼んだ
話もほとんどせず、注文しながら食べるうち、父が
「そんな順番で食うもんじゃない」ときた
「え?どんな順番で食べるのよ?」と聞き返すと
「そんなことは、俺に聞くもんじゃないっ」
「初めて食うわけじゃあるまいし、人が食うのをみてりゃわかるだろうっ」と私を頭ごなしに叱りつける
カチーンと来たし、ムカついた
鮨屋のカウンターに座って、どういう順番でネタを注文するのかなんて、誰も教えてくれたことないし、だいたいそんなにしょっちゅうカウンターで鮨を食べることなんてない!
なんで、こんな嫌みなことを言われながら、この父親と並んで鮨をたべなきゃいけないのか、わからなかった
すでに、鮨の味なんてわからないほど、腹が立っていた
こんなこと言われながらご馳走してもらったって、美味しくもなければ、有難くもない
こんなんなら、自分で払って美味しく食べたほうがよっぽどましだ
父のおごりでふたりで鮨を食べに来るのは、これで最後にしようと決めた
食べ終わり、私が怒りに震えるようにして、先に立って店を出ると
いつものように、父は私の機嫌を直そうとしてくる
「コーヒーを飲んでいこう」
私は行きたくなかった、でも、一度言い始めると、私が頷くまで、この人は後へは引きさがらない
下手をすると、公衆の面前で大声で叫びだしかねない(実際やったことがある)
そんなのに巻き込まれたくない
氷のように固い表情のまま、ほとんど何も話さず、コーヒーを飲み、別れた
喫茶店で黙りこくった私に向かって、父は言った
「お前と俺は、ほんとうに合わないな」
合うわけがないと思った
父とふたりで鮨を食べに行ったのは、これが最後
父との外食、というのは、ふたりであっても、家族と一緒でも、大なり小なり、いつもこんな感じでした
母は、いつも同じものを注文する、と父からバカにされ
私が蕎麦屋で、うどんなんか注文しようものなら「蕎麦屋でうどんなんか食うやつがあるかっ!」と頭ごなしに怒鳴られたり
子供の頃は、自分が食べたいもの、というより、まず、父に怒られないものを選ぶようになりました
内心はビクビク、心は緊張・・・